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大阪高等裁判所 昭和37年(う)2474号 判決

被告人 菅原巽 外三名

主文

被告人山本勝三の本件控訴を棄却する。

原判決中、被告人菅原巽、同金本慶太郎、同吉田六郎に関する部分を破棄する。

被告人菅原巽、同金本慶太郎を夫々懲役四月に、被告人吉田六郎を懲役三月に各処する。

本裁判確定の日から右被告人等三名に対し夫々三年間右各刑の執行を猶予する。

被告人菅原巽から同被告人の収受した日立製テレビ一台(同被告人の自宅に所在)を、被告人金本慶太郎から同被告人の収受した日立製テレビ一台(同被告人の自宅に所在)を夫々没収する。

被告人菅原巽から金十一万六千円、被告人金本慶太郎から金十六万五千円、被告人吉田六郎から金九万五千円を夫々追徴する。

訴訟費用中、原審証人滝本安一、同石岡正、同片桐忠信、同石倉源一郎及び同渡辺司に各支給した分は被告人菅原巽の負担とし、原審証人宮島清及び同花住茂に各支給した分は被告人金本慶太郎の負担とする。

理由

被告人吉田六郎の弁護人沢村英雄の控訴趣意一、及び被告人山本勝三の弁護人三木今二、同中坊公平連名の控訴趣意について。

論旨は、いずれもこれを要するに国鉄職員は日本国有鉄道法に基き公務に従事するものとみなされているけれども、国鉄共済組合は公共企業体職員等共済組合法に基き、国鉄職員等の福利厚生を図りもつて国鉄の円滑な企業経営に資することを目的として組織された独立の法人であつて、同共済組合の業務は国鉄固有の業務ではないのであるから公務ではない。したがつて被告人吉田六郎は国鉄職員であるけれども、同被告人が右共済組合の業務に従事しその業務に関して金品を収受しても刑法にいわゆる収賄罪を構成するものではなく、被告人山本勝三が右組合の業務に従事する職員に対して金品を供与しても贈賄罪の成立する余地がないものであるに拘らず、原判決が、いずれもこれを有罪と認定したのは法令の解釈適用を誤つたものであつてこの違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであると主張する。しかし、国鉄共済組合従つてまたその一機構である同共済組合物資部は強い公共性のある目的のもとに法令により組織されたものであり、その業務の執行についてもすべて法令により規定されているのであるから、本件組合の物資部の業務執行は日本国有鉄道(以下国鉄と略称する)固有の業務の執行ではないにしても、公務員とみなされる国鉄総裁、国鉄副総裁及び国鉄理事に課せられた公務に属し、国鉄職員が国鉄総裁の命によりその補助機関として右共済組合乃至同物資部の業務に従事する場合も、その業務は法令により公務に従事する者とみなされる国鉄職員としての職務に属するものと解すべきことは原判決の詳しく説明しているとおりである。なお所論に引用する各判例はいずれも本件とはその性質を異にする事案に関するものであつて適切でなく、これをもつて所論を肯認する資料となすことはできない。各所論は独自の見解に基くものであつて到底採用の限りでないから論旨はいずれも理由がない。

被告人菅原巽、同金本慶太郎の弁護人平田奈良太郎の控訴趣意、被告人金本慶太郎の弁護人幸節静彦の控訴趣意、被告人吉田六郎の弁護人沢村英雄の控訴趣意二、について。

論旨は、いずれも原判決の量刑は重きに過ぎ不当であると主張する。

よつて本件記録及び原審において取り調べた総ての証拠を精査して本件犯行の動機、態様、被告人等の家庭状況、経歴その他諸般の事情を考慮すると、本件は被告人等がいずれも国鉄職員であつて国鉄共済組合物資部の業務に従事しその業務の執行に関し、出入商人から被告人菅原は二十一回に亘り日立製テレビ一台外現金等計十一万六千円を、被告人金本は二十七回に亘り日立製テレビ一台外現金等計十六万五千円を、被告人吉田は十五回に亘り現金等計九万五千円を夫々供与を受けて収賄した事案であつてその回数、金額から見てその犯情は軽視できないものであるが、被告人等にはいずれも前科がないこと、改悛の情顕著なものがあることその他各所論の点を斟酌すると被告人等に対し今直ちに実刑を科するよりは、刑の執行を猶予して厳重に将来を戒め更生の機会を与えるのが相当と認められる。論旨はいずれも理由がある。

よつて被告人山本勝三に対しては刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却すべきものとし、被告人菅原巽、同金本慶太郎、同吉田六郎に対しては同法第三百九十七条第一項第三百八十一条に従い、原判決中同被告人等に関する部分を破棄し、同法第四百条但書に則り更に判決する。

被告人菅原巽、同金本慶太郎、同吉田六郎に対する各原判決認定の事実にその掲記に係る各法条及び刑法第二十五条第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 奥戸新三 竹沢喜代治 野間礼二)

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